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​百円新聞

「来週は窓ふきをしますから、新聞を持って来てくださいね。」

と先生が言った。子どもたちは、はあいと返事をした。

 

「新聞なんて、うちでは取ってないわよ。」

「でも、先生が言ったんだ。シンブンを持って来いって」

「そうは言ってもねえ……。今どき、新聞を取ってある家庭なんて、あるのかしら……」

母親は困ったようにつぶやいた。ここ数年で、新聞を読む人がどんどん減っていったので、今ではもうどこにも売っていないのだ。

「他のもので代用できないか、先生に聞いてみようかしら」

母親が電話をかけると、夜だというのにすぐにつながった。

「先生、どうしても、新聞でなくてはいけませんか」

「ええ、昔からのならわしですから……」

「雑巾とか、他の紙でもだめなのですか」

「長年、新聞を使っているものですから……」

と何度か同じような問答を繰り返したが、やはり新聞でなくてはならないようだった。母親はあきらめて、分かりました、何とかしてみますと告げ、うやうやしく挨拶をしたあと、電話を切った。

 何か釈然としなかったが、先生が言うのならしょうがないと、来週までに新聞を探すことにした。

 

 次の日から、全国の小学校の近所の百円均一ショップに、新聞は置いてないかという問い合わせが殺到した。

「新聞紙、ないんですか。」

「来週までに、要るんです。」

「シンブン、てのは、売ってありますか。」

 百円均一ショップの店員はにわかに慌てた。その波紋は本部にもすぐに伝わった。

「社長、新聞が欲しいという問い合わせが殺到しています」

「なに、新聞だと?」

「はい、それも、全国で。なんでも、小学校の窓ふきに使うんだそうで」

「ふむ……。どんな理由にせよ、お客様のニーズがあるなら、商品のラインナップに加えんとな……。しかし、新聞か。窓ふき用ということなら、文字はいらんだろう。ようし、字なし新聞を作り始めろ、今すぐにだ!」

そういうわけで、すぐさま字なし新聞が作られ、全国の百円均一ショップで販売された。小学生の子どもを持つ親がどんどん買っていき、字なし新聞は飛ぶように売れた。

 しかし、大掃除のシーズンが終わると、当然ながら字なし新聞はさっぱり売れなくなった。そこで、百円均一ショップの本部で、販売促進会議が行われた。

「一度はあんなに売れたのだから、新聞は、もっと売れるはずだ。何かいい案はないだろうか……」

「こういうのはどうです。世の中の新しい出来事や情報を、字なし新聞に書くんです。これは売れますよ……」

 こうして、窓ふき用でない、ニュースが書かれた新聞という、画期的な発明が生まれたのである。

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