Novels
不可思議な古代書
ある考古学者が、奇妙なモノを発見した。
「昔の主なメディアであったとされる紙の研究者として、本や雑誌、チラシは見たことがあるが、このような代物は初めて見たぞ。これは大発見だ…」
灰色の薄い紙に、古代文字がびっしりと……。それが何枚も重なって、冊子状にまとまっている。ところどころ劣化して読めなくなっているが、歴史的価値の高い、貴重な資料であろうことは一目で分かった。考古学者は、嬉々として調査にとりかかった。
「どうも、この不可思議な古代書は、インターネットが無かった時代に、情報を人々に伝える役割を果たしていたようだ。古代文字なので、解読が難しい部分もあるが、歴史的価値のある情報が多く書かれてあることには間違いないとみていいようだ。人々はこれを読み、世の中の情勢を把握していたのだろう。しかし……」
考古学者は、首を傾げた。
「しかし、気になるのは、ペットの自慢とか、マイブームだとか、歴史的価値があるようにはとても思えないような記事が書かれてあることだな。この時代の地球では、環境問題が深刻で、紙は貴重だったはず。それを、こんなどうでもよさそうな情報に使うはずがない…。当時はこの情報が、とても大事だったのだろうか。それとも、じつは木を切らずに紙を作る技術があったとか……。」
考古学者は、自分の専門だけでこの奇妙な文字列を解読するのは不可能だと察知し、あらゆる方面の専門家や有識者たちを集めた。
「この、人物の写真はいったい何でしょうか。子どものようですが」
「ふむ……。タイトルがついているな。現代の言葉にすると、『僕の夢 私の夢』といったところか。おそらく、将来の志を記してあるようだ。マニフェストのようなものだろうか。だとしたら、それを市民に発表しているのだから、政治家とか、歴史的重要人物である可能性が高い。まだ幼いのに、過酷な宿命を背負っていたのだな……」
「最後のページを見てください、表のようなものが、ずらりと……。この縦軸の数字は、時間を表しているのでしょうか?」
「これは、テレビ番組の一覧ではないか?」
「しかし、電波で通信できないから紙で頒布していたのでしょう?電波で通信する技術があるのに紙で情報を発信するだなんて、おかしいですよ」
「どうやって人々に届けたのかも謎だ。この時代にはドローンなどないだろう。まさか、一軒一軒配って回るなんて、そんな大変な手間をかけるわけが……」
また、ある生理人類学者は、こう考えた。
「この大きさの冊子を広げて読むには、ヒトの身体は小さすぎる。ひょっとすると、この時代のヒトは、我々よりずっと、図体が大きかったのかもしれない……。あるいは、腕がものすごく、長かったのやも……」
あるミステリ作家は、未来を予知しているのではないかと言った。またあるSF作家は、これは地球で書かれたのでなく、異星人からみた地球の様子なのだと主張した。いやいや、この美しい構成に、斬新なスタイル……。きっとアート作品に違いない、という芸術家もいた。どの推論も、なんとなく当たっている気がするのだが、どこか腑に落ちない。
学者たちは、うんうん唸りながら会議をした。どう仮定しても矛盾が生じた。一つピースを合わせると必ず別のどこかが合わなくなるパズルのようだった。そのうえ、大変な情報量なので、分析するのに時間がいくらあっても足りない。なんて奥深く貴重な資料なのだろう。どこをとっても新しい発見があるので、学者たちは、この不可思議な古代書を、ひとまず「ニュース・ペーパー」と呼ぶことにした。