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執筆者の写真オオイシアオイ

精算

そろそろ、精算しなければならない、と思う。

主に、家族について。

母にしてきた仕打ちについて。

弟への負い目について。

父と一言も口を聞かなかった約2年の期間について。

精算しなければ。でも、どうやって?分からない。なんとなくやり過ごす術しか知らない。義務教育では教わらない。



コロナに罹った。ネトフリを観たり本を読んだりしているうちにあっという間に時間は過ぎていく。暇に向いているたちだなあ、と思う。高等遊民になりたい、と中学生の頃の私は思っていた。桜庭一樹『ばらばら死体の夜』に影響されてのことだった気がする。あくせく労働したりせず、書物に溺れ、歌を歌いながら過ごす、それが高等遊民。図らずも自宅待機期間中、1週間限定で高等遊民の生活を送っていることになる。なんか、いまいちだな。「高等遊民」っていう響きに期待しすぎていただけだったみたい。喉、痛いし。



高等遊民になりたい、と願う一方で、中学生の私はまた、「バリキャリになりたい」という矛盾した夢も描いていた。私のことを少しでも知る人であれば「いや、それは無理でしょ…」と真顔で言うに違いないのだが、これは今思えば仕方のないこと、というか、消極的な自我の現れなのであった。つまり、主体的にぜひとも望んで「バリキャリになりたい」と思っていたわけでは恐らくなく、それは田舎社会に根強く残る「結婚して専業主婦となるのが女の幸せ」という価値観への反抗心であり、父親の扶養という名の束縛から自立したいという父親への(あるいは家というものへの)嫌悪感であり、さらに公務員の父親よりももっともっと稼いで見下してやりたいという対抗心の現れであった。


なんやかんやで現在は、契約社員として民間企業に勤めている。正社員でもなければ、稼ぎは父親よりはるかに少ない。バリキャリとはとても言えない。現実はこんなもんだ。


しかし、例え「バリキャリ」になれていたとしても、どれだけ稼いだとしても、それが父に対する復讐であるとは、当の本人には気づかれることすらないだろう。そんなものだ。



アメリカのドラマを観ていると、"talk"というワードがよく出てくる。"We need to talk." "You wanna talk about it? " 大事なことは話し合わなくてはならないようだ。


精算、するなら。

ドラマを見習うとすれば、我々は話し合わなくてはならない。家族会議?そんなの一度もしたことない。むしろなるべく触れずにいられるよう逃げて逃げてここまでやってきた。父の母への暴言に私が加担していたことも、弟を邪険にしていたことも、話題にすら上がらない。上げようとしてこなかったから。私と父が2年間冷戦状態だったことさえも、誰も何も語らない、何もなかったかのように。そんなはずないのに。これっておかしいんだろうか。みんなそうなんだろうか。普通の家族って何なのだろうか。わからない。家庭という密室で起きたことは、外のものにはわかりようがない。



アメリカのドラマから一つ学べることがあるとすれば、それなりに平凡な家族関係を築くためには、不断の努力と並々ならぬケアが必要だということだ。破綻に身を任せる方が楽だなんて思ってしまう。



仮に、もし仮に、私が勇気を振り絞って「さああのことについて話しましょう!」と持ちかけたとして、向こうがはぐらかす体勢だったらどうすればいいのか。


そもそも、「精算」してどうしたいのか。なぜ精算しなければならないのか。自分がすっきりしたいだけではないのか。自分勝手な、エゴイスト。ナルシスト。畜生。



まっ、ゆーてまだ若いし…という油断から先延ばしにしてしまっているのもある。しかし死はいつ訪れてもおかしくない。老いは刻々と迫って来ている。


父方の祖母が寝たきりになっている。殆ど会話もできないらしい。その話も、両親はあまりしたがらない。私も、あえて聞き出そうとしない。こういう、ところ……。


祖母の飼っていた犬を、両親が引き取って世話している。その犬も、少し前まで元気に尻尾をふってふさふさとしていたが、今は認知症で、昼間はぐったりとしている。たまに、同じところをぐるぐると回っている。


名前を、呼んでみる。動きが止まる。目は合わないが、伝わっているような気がする。そうあってほしいという人間らしい都合のいい欲望を押し付けているだけなのかもしれない。


たばこの煙が揺れる。しばらくの沈黙の後、犬はまたぐるぐる回り出す。絡まりそうで絡まらない、鎖の音。

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